最高裁判所第三小法廷 昭和55年(行ツ)93号 判決 1982年4月27日
大阪市西成区汐路通三丁目一三番地
上告人
北富浴場株式会社
右代表者清算人
伊東重治
右訴訟代理人弁護士
根ヶ山博
大阪市西成区千本中一丁目三番四号
被上告人
西成税務署長
伏木勝
右指定代理人
山田雅夫
右当事者間の大阪高等裁判所昭和五三年(行コ)第五四号法人税賦課処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五五年四月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人根ヶ山博の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないものではなく、その過程に所論の違法があるとはいえない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己)
(昭和五五年(行ツ)第九三号 上告人 北富浴場株式会社)
上告代理人根ヶ山博の上告理由
第一点 原判決の判断判決に影響をおよぼすことが明らかな採証則の違背がある。
一 即ち原判決は原告会社が毎日正直に記載している伝標や記帳を一部の誤記を主なる理由として排斥し、原告会社の営業所附近には約一二〇メートル乃至三〇〇メートル離れた範囲内に実に一三ヶ所の同業者が浴場を経営している(甲第七、八号証)のにその内の最も遠い(約三〇〇米)大黒湯(原判決はこれを約一五〇米しか離れていないと認定しているが不当)一同業者のみを比較対照に選び「伊東温泉の水道使用量は燃料費とほゞ対応していること漏水や滝の使用量はさして多量とは認められないので伊東証人の各供述部分は措信できない。その他の理由は原判決の理由と同一である」として上告人の主張を斥けたが右は漏水の場合は水道メーターに対応して燃料が多くなることは経験則上も明らかなことであり何ら不合理ではない。又同種業者を比準対照に選びしかもそれが一業者でも許されることはかつての控訴審判決にもその例は見られるがそれは他に適当な対照企業がない場合に限られることは当然である。
二 附近にある一二ヶ所の同業者は少くとも距離的に右大黒湯よりは近く立地条件が上告人の営業所に近い。被上告人はその業者につき調査を行つた筈であるのにそれを総て比準対照にしないのは何故か、その業者総てが不正経理をしていたというのか、そうだとすればその点を更に審理すべきではないのか然も不都合なことに右大黒湯は水道の外に井戸水を使用しているのである。井戸水使用業者は非常に少なくその水の使用にはメーターはない。これは浴場業者としてもそれを使用しない業者とは質的に異るものである。かゝる業者一つを持出して単に水道水の使用量と売上金の関係のみを較べこれをほとんど唯一最大の証拠とすることは余りにも専断に過ぎ暴挙である。
三 特に看過してならないことは右大黒湯の営業所と上告人の二ヶ所の営業所は何れも家族の者が従業者として働き規模もよく似たものである。そして毎事業年度の申告所得額の内容は入浴人員等重要な点において大差がなくただ異るのは水道水使用量と入浴人員の割合が違つているに過ぎないのである。そのことはむしろ上告人が水道水のみを使用し、しかも破損箇所も写真で証明している如く(甲第六号証)設備の不完全性による漏水等の不合理経営に基因することを証明しているものと見るのが常識である。
四 以上のように重要な問題を無視し比較対照に持ち出すことが最も不適当である一業者の一部の経営内容のみを比準対照に選び他の上告人側の総ての証拠を斥けた原判決は明らかに採証法則の違背であつて判決に影響を及ぼすもので破棄すべきである。
第二点 原判決は判決に理由を附せず又は理由に齟齬がある。
一 即ち入浴客小人、中人、大人の割合等被上告人主張の通りとして上告人が申告した売上金を料金で除した一日の平均入浴人員は六一八人乃至六二七人である。これは上告人営業所に隣接する同業者証人南出仁三郎、同梅原秀夫等二名の証言によつても正当なものであることが証明されている。これに対し被上告人が主張する入浴人員は上告人の各営業所共、多い事業年度(昭和三八年)では一、一九五人に達する。この人員は右証人の証言によつても上告人営業所の規模のものでは到底扱い切れない人数であることがわかる。そして右の一、一九五人は一年均のものでその間季節や天候等により入浴者は半減する日もあり従つて倍ほども来る日もあるので一日ゆうに二千人も越す入浴客があることになり余りにも現実離れのものとなる。上告人はこの点をも強く主張し控訴審において同業者の証人によつて立証したのに拘らず原判決はその点に全く触れず理由を附せず、この明白な主張を無視して安易に原判決の理由の通りであるとして被上告人の主張を斥けたことは民事訴訟法第三九五条第一項六号に該当する。